2008年11月20日
「社会によき人間」であれ
19日、ここ白山市は昨年より8日早い初雪を迎え、南に仰ぐ白山も真っ白な雪帽子をかぶりました。先週のおだやかな小春日和にひきかえ、予想もしない急激な冬将軍の襲来です。そういえば先日社屋周辺の樹木に雪吊りをほどこした際、庭師のじいちゃんが「今年はいつもと天気が違う。こりゃぁ、雪が早いかな」とつぶやいていたのを思い出します。さすが亀の甲より歳の功、天気予報より永年のカン、歳を重ねた人の言葉には耳をかたむけるものだということを、あらためて実感しています。
そうした折、これもまた歳を重ねた人から、やはり心に響く便りが届きました。以前、我が社の桶胴づくりの職人を一年間にわたって住み込みで受け入れて指導してくれた新潟の桶職人、金子翁87歳。時候の挨拶と近況報告に続き「これからも健康に注意し、仕事にも社会にもよき人間として頑張っていきます」の一文。「社会によき人間」とは、なんと達観した言葉か。とかく私たちは我が身の回りのことだけを考えがちですが、社会あってこそ、社会の皆さんのおかげで商売をさせていただき、生きさせていただいている。そんな当たり前のことを忘れてはならないと、今さらながらに教えられた思いです。
金子翁は、かつて私に「正直」という言葉の由来を教えてくれた人でもあります。「正直」とは、桶を組むときに、つなぎ合わせる板と板との側面が一分の隙もなくピタリと合うことであり、それが一般に言う「正直」、つまり嘘やごまかしがないことを表すようになったそうです。
何かにつけ気の引き締まるような教えをくださる金子さん、どうかいつまでもお元気で、これからも技と心の師匠でいてください。
2008年11月12日
新しい人生への出発と、伝統芸能の継承
先週金曜日の7日、横浜の知人が銀座で「生誕60周年を祝う会」を催しました。「還暦」とせず「生誕60周年」としたところがなんとも小粋ですが、パーティーの内容もなかなか小じゃれた演出。本人は 音楽関係の会社に勤務するかたわら、ドラムスの腕も玄人はだし。パーティーはまず二人の息子さん娘さんとのドラムの競演で幕を開け、ゲストのプロドラマーも交代で演奏。美空ひばりの「真っ赤な太陽」や「山本リンダの「ねらい撃ち」など懐かしいメロディーが次々に飛び出し、私もしばし青春時代にタイムトリップしながら楽しいひと時を過ごしました。生誕60年という節目の時を迎え、これからがじっくりと人生を楽しむ時間。どうかお体を大切に、人生の後半の物語を紡いでください。
二日おいて9日は、九州の諫早市で開催された「第五十回九州地区民俗芸能大会」に招かれ、太鼓に関する講演をさせていただきました。「伝統、伝承、優美の共演」と銘打ったこの大会には、九州各地からおよそ8の無形文化財指定の伝統芸能保存会の皆さんが参加。太鼓の管理とメンテナンスの実演ではたくさんの質問が寄せられ、またそれぞれの地域で伝統芸能を守る皆さんの誇りやご苦労なども間近にうかがいました。こうした機会をいただくにつけ、日本の文化の豊かさを実感するとともに、自分に何ができるのかを模索するばかりですが、とにかく私でお役に立つことなら精いっぱいのお手伝いをさせていただきますので、これからもどうぞよろ しくお願いいたします。
知人の「生誕60周年を祝う会」
「第五十回九州地区民俗芸能大会」
2008年11月 6日
深まりゆく秋、出会いと決意
秋の深まりとともに野山が日々紅葉に染まっていく一方、浅野太鼓の駐車場では、10月の半ばから咲き始めた山茶花(さざんか)の花が風に吹かれて薄桃色の花びらを散らしています。ご存じのように、山茶花は椿の仲間。しかし椿は咲き終えると首から花ごと「ぽとり」と落花するのに対し、花びらを一枚一枚音もなく散り敷いていくのが山茶花。同じ仲間でありながら、二つの花がまったく異なる散りぎわを見せるのは、考えてみればなんとも不思議な自然界の理です。
さて、先週の三連休は、好天もあってか浅野太鼓には遠方からのお客様がたくさんお越しくださいました。まずは新潟から、40年来のおつきあいがある友人。所用で京都へ向かう途中とのことで、久し振りにゆっくりと太鼓談義。そして大阪からは、低音に対してひとかたならぬこだわりをもたれている男性のお客様。仕上がりの音について何度も電話で確認されたうえでのご検分で、実業家として成功をおさめられている方ならではの慎重な姿勢を垣間見た思いでした。さらに滋賀からは二人連れの若い女性のお客様。こちらも理想の音づくりを目ざし、私のアドバイスに熱心に耳を傾けてくださる姿が印象的でした。また私事で恐縮ですが、4日火曜日の夜にNHKテレビの『歌謡コンサート』で、次女の町子が坂本冬美さんの横で太鼓を打たせていただいているシーンを目にしたのも嬉しいできごとでした。
こうしていろんな方々が浅野太鼓を贔屓にしてくださるのも、我が社を信頼してくださっているからにほかならないと思うにつけ、このところ不用意なミスを繰り返して一部のお客様に多大なご迷惑をおかけしていることは、なんとも残念でなりません。
若いころ、岐阜県高鷲村で呉服店を営みながら太鼓チームに参加されていたHさんからこんな言葉を聞きました。「商売をしている以上、土曜も日曜もあると思うな。たとえ足袋一足の注文でも、私ならどこまででも走って届ける。それが信用をつくる」。まさにこれこそ商売の原点。我が社が年末年始以外は土・日・祝日も営業するようになったのは、その言葉がずしりと胸に響いたのがきっかけでした。なんと、今回の不行き届きの一つは、よりにもよってそのHさんに納品を約束した日に太鼓が届いていないというのですから、慚愧の極みです。ただちに岐阜に向けて従業員を走らせたのは言うまでもありません。
ちょっとした油断が重なれば、400年かけてつちかってきた信用もやがて失われていくことにもなりかねません。そうならないよう、いっそうきつく気を引き締めて諸事にあたってまいりますので、どうか引き続きのご愛顧をよろしくお願いいたします。