2012年11月15日
それぞれに時間の積み重ねがはぐくんできたもの
先月28日の「くしろ蝦夷太鼓」45周年記念演奏会に続き、このところ周年記念公演が相次いでいます。
11月9日から11日まで、ソロ奏者・富田和明さんが鼓童メンバーの齋藤栄一さんとがっぷり四つに組んで繰り広げた「富田和明太鼓芸能生活35周年記念公演・和太鼓トーク齋富(さいと)」が、東京都江東区の「ティアラこうとう」で開催されました。1977年、鬼太鼓座の太鼓に魅せられて佐渡に渡り、89年に鼓童を退団してからはソロとして23年。太鼓ひとすじに打ち込む執念はすさまじいばかりで、太鼓界にはかけがえのない人材。かといって決して悲愴感をただよわせるわけではなく、ともに個性豊かで芸達者の齋藤さんのトークと演奏は、2時間笑わされっぱなし。昨年、大病を患われて以後はさらにふっきれたのか芸に深みが増し、じつに見応えのある舞台でした。これからも応援させていただきます。どうか頑張ってください。
翌10日は、山形県村山市の「杉島諏訪太鼓保存会」の結成30周年記念公演。会長の柴田平八郎さんはすでに80歳を超えた高齢ながら、いまだかくしゃくと舞台に立たれて驚くばかり。30年の歳月によってすっかり地域に根付いた太鼓の灯を、後進の指導とともにどうか守っていってください。
11日、ふたたび関東に戻り、群馬県藤岡市で今年第11回となった全国太鼓フェスティバル「太鼓エモーション」へ。「上州上杉管領太鼓」代表の上原さんが中心となって継続しているフェスティバルに、今回は地元2団体に加えて長野県や奈良県、埼玉県、石川県などから6団体が出演。中でもひときわ光っていたのは、「真言宗豊山派千響」に参加していた「英哲風雲の会」の田代誠さん。打ち込み、間の取り方など絶妙で、多くの観客の感動をさらっていました。風雲の会の1員となって9年、確実に成長してきたことが音色に表れ、本当にいい太鼓を聴かせてもらいました。ほかの皆さんもそれぞれに味わい深く、この舞台も10年たってしっかり自分の足で立てるようになったことを実感しました。どうもお疲れ様でした。
2012年11月 5日
鼓童の舞台に新たな境地を見る
11月1日から11日まで、香川県琴平町の金丸座で、坂東玉三郎特別公演が開催されています。金丸座は正式名称を「旧金比羅大芝居」といい、天保6年に建てられた、現存する中では日本最古の芝居小屋だそうです。玉三郎さんがここで公演するのは初めて。そして第二部では玉三郎さんが芸術監督を務めている鼓童の太鼓で玉三郎さんが踊るという趣向。初日にお邪魔した小屋は玉三郎さんが目当てと思われるご婦人の姿も多く、いつもの鼓童の会場とはちょっと異質な、華やいだ雰囲気がただよっていました。
第一部は、玉三郎さんの舞踊で「雪」と「鐘ケ岬」の二題。先日、人間国宝となった玉三郎さんの踊りは息を呑むほどのあでやかさで、指先、つま先、視線の先まで神経がはりめぐらされているような緊張感が心地良く舞台を支配します。続く二部、鼓童が演奏する「いぶき」は大太鼓、長胴、平太鼓、締太鼓、桶胴と、音質の異なる太鼓を組み合わせ、大太鼓の深い音色がアンサンブル全体を大らかに包み込むような安心感の中、玉三郎さんの情緒豊かな踊りが曲の物語性を高めます。打ち手もベテラン、中堅、若手を上手に組み合わせ、それぞれが見せ場をつくりながら、ベテランはそれなりの風格を、若手は将来を期待させる新鮮さを表現。そんな舞台に心を奪われつつ、玉三郎さんは太鼓を、音楽というより音の表現をもって物語を紡いでおられるのではないか。そして今この舞台だけでなく、50年先、100年先を見据えながら鼓童の演奏力を高めるための演出をされているように感じました。長く鼓童の舞台を見てきた私にも、2006年に初めて玉三郎さんと共演した「アマテラス」以来、鼓童の空気感が変化してきたことがなんとなく伝わってきます。設立から30年、鼓童のこれからがますます楽しみになってきた金丸座の舞台でした。