2021年5月 7日
刀匠隅谷正峯氏をしのぶ
4月24日から6月6日まで、白山市松任博物館において、白山市が誇る刀匠・隅谷正峯の特別展「生誕100年記念 人間国宝 刀剣作家 隅谷正峯−思いは鎌倉期に漂いて−」が開催されています。隅谷氏といえば、浅野太鼓にとっての大恩人。昭和40年代、松任(現在の白山市)の小さな太鼓屋だった浅野商店が、まがりなりにも現在の「浅野太鼓」というブランドを確立した礎の一つとなった、太鼓胴の座金のデザインに大きなヒントをくれた人物だからです。当時、どこの太鼓メーカーも太鼓の座金といえば薄い鉄板を四角に切って胴に当てたような変哲のないものでしたが、私は太鼓のパーツの中で唯一自己主張できるのがこの部分と考え、全国どこにもない重厚で芸術性の高い座金をつくってみようと思い立ったのです。あれこれ相談相手を思案したあげく、同じ松任で刀剣を製作されていた隅谷氏の元を訪れ、正直に思いのたけを訴えました。すると氏は「刀の鍔のデザインを研究してみなさい」。そして「古式ゆかしい色を出すには、ネズミのフンから作った液で磨くのが良い」と教えてくれました。その言葉通り、工夫に工夫を重ね、現在の浅野太鼓の座金のデザインを確立したわけですが、思えば40代の若造の無礼な問いにまったく偉ぶらずに応えてくれた氏の度量の大きさは、今でも熱く胸に残っています。ちなみに刀の鍔の意匠にヒントを得て考案した座金のデザインに込めた意味を説明すると、座金の四辺に刻んだ唐草模様は、吉祥文様の一つで「いかなる困難も克服し、未来永劫にわたって栄える」との意味を持ち、中心の十二弁の菊花は、「高貴」を花言葉とします。この二つの組み合わせは日本の伝統楽器を代表する和太鼓のエンブレムとして、もっともふさわしいデザインと考えているので、皆さんもぜひお手許の太鼓の釻をあらためて見直してみてください。
今回、この特別展に、私も一口の太刀と三刀の刀子を出展しました。銘「手取の響」なる太刀は、不規則に乱れた刃文が里にとどろく太鼓の響きをあらわしたとのこと。また刀子の一は平成5年の現天皇・皇后のご成婚記念に打たれた由緒深き逸品で、いずれも今は亡き隅谷氏をしのぶ貴重な形見として、私の大切な宝物になっています。
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